ジスルフィラム




【注意】


1)暗い・狂い系の話です。苦手な方は即行で逃げてください。

2)痛い・グロいというほどでもないですが、遠まわしにグロです。
  ちょっとカニバリズム。

3)念のため検索避けを設置してますが、誤って検索で来てしまった方へ。
  ここは学術的なページではありません!
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 その笑顔を向ける相手が女なら、頬を染めただろうに。
 あるいは。
 その笑顔のあとに続く言葉が、優しかったなら、笑みを浮かべられただろうに。
「ボクが、殺すよ」
 事も無げに言う。
「キミが死ぬときは、ボクが殺してあげる」
 甘ったるい口説き文句を吐くように、うっとりと。
 目の前に座る男は、言った。



 好きなのだと囁き始めたのはいつだったか。
 きっかけが何所に転がっていたのかはっきりと覚えていないが、確か、旅をしていた頃に既に何度も口にしていたように思う。
 その感情は思い違いだ。間違いだ。勘違いだ。
 何度もそう説いた。
 そうして何年経っても、歪んだ感情からコイツは抜け出せない。
 俺に出来るのは否定することだけだ。
 チャックが、過ちに気づけるように。
 それでも繰り返す。
 似た問答を。
 どういう話の流れだったのか、酒を飲んで互いにほろ酔い気分を味わっている最中のことだった。
 ふと、チャックの空気が変わる。
 ああ、またか。
 また、あの繰り返し。
 折角良い気分だったというのに、水を差されたように思った。これさえなければ、差し向かいで飲むことも楽しめる相手なのだが。
 そして、女に向けるような甘い表情と息を交えて、チャックは囁く。
「グレッグが、さ。
 死ぬときは……ボクを側に置いてよ?
 ボクが」
 一口、舐めるように酒を啜り。
「ボクが、殺すよ。
 グレッグが死んでしまう前に、殺す。
 キミが死ぬときは、ボクが殺してあげる」
 喉が、乾燥する。
 アルコールのせいだと、思いたい。
 けれど、ぞっと冷える手足がそれは違う、と警告していた。
「……馬鹿な。
 お前にヒトが殺せるはずがないだろう」
 ヒトの死の重みも、痛みも、知っているお前が。
「殺せないよ。
 だけど、同じ死ぬなら、ボクが殺したい。
 グレッグが、最期に目にするのがボクだったらいいのに、って。
 誰かに殺されてしまう、なんて想像するのも嫌だ。
 老いや病気に任せるのも。
 ボクが、この手で……それから」
 それから、と言ったものの、続きはチャックの口から出ることは無かった。
 ただ、口の端を上げて、ゆるりと笑む。
 わずかに、呑んでいた酒の色が端に残ったままで。
「お酒、まだ残ってるよ?」
 瓶を軽く揺らす。一杯分以上はありそうな音を立てる瓶に、俺は頭を振って拒絶した。
 フルボディの渋みに、今は耐えられそうも無い。





それなりに補足。フルボディ=赤ワインの辛口。


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