だまされたいの
今日は絶好の日だ。
これを逃したらもう二度とこんなすさまじい好機など巡ってくるはずもない、多分、一生に一度の日。
もうフラグクラッシャーとは呼ばせない。ボクは生まれ変わったんだ!
これは、その記念すべき一歩となるのだ。
「放せッ!!」
ボクに上から押さえつけられて、グレッグがわめくけどその様子さえ愛おしい。
あああもう早く撫でたい!撫で回したい!
苦もなく押さえ込めるのは理由がある。
普通なら体格差も力の差も歴然と存在していて、ボクの行く手を阻む。
今日は違う。
どれだけ彼が必死で抵抗しようとも逃げられない。
「大人しくしなよー、グレッグ。
男だろ?」
両手首をかっちりホールドしたまま、抵抗をやめないグレッグに語りかけるボク。
余裕綽々のボクと比べ、グレッグは全く余裕がない。
ここで諦めてもいいと思うのだけど……こうやってねじ伏せながらってのもなかなか楽しい。
「男だからこそだッ。大人しくヤられてたまるかッ!」
反抗の意思は緩まない。けど、その中にほんのすこし、恐怖が混じってる。
かわいそう、と思わないわけじゃない。
「グレッグ……」
「ほら、な。落ち着け。男なんか抱いたって面白くないぞ」
「…………優しくしてあげるからね?覚えてれば」
「覚えてれば、だと……ッ止めろ、脱がすなッ!!」
かわいそう、って思う以上に、怖がってるグレッグにたまらなく興奮してしまう。
片手で暴れようとする手を押さえ、残った手でジャケットを脱がす。
なんて簡単なんだろう。
世界がボクの味方をしてくれている!
手が直接肌に触れるだけで、びくりと体を揺らす。
小動物みたいに怯え、逃げようとするけれどどうにもならないところがまた。
「……くッ」
本気で抗ったところで今日のボクには敵いもしないのに。
余計な体力を消耗しちゃったみたいで、呼吸が荒い。
それは、そうだろう。だって今日のグレッグは体力も力もずっとボクに劣るのだから。
何しろブラックマーケットで買い物してきたばっかりなんだから。
もう精気なんてすっからかんのはずだ。
こんなに大きくて、がっしりした体格のグレッグがボクに全く歯が立たないで、されるがままっていうこの状況はとても美味しい。
「それじゃ、いただきまーす」
「止め……ッ」
ズボンに手を伸ばし、ホックを外していざ中身とご対面、ってときになってもまだグレッグは諦めようとはしない。
「チャック、頼むッ。い……今は……ッ」
「えー?今はダメって?
なんで?」
今じゃなくたって、何時だってグレッグは嫌なんだけど。
そしてボクも止める気なんてさらさらなかったんだけど。
余裕から為せることなのか、グレッグの言い訳を聞いてみたい、と思った。
「何で、だと?
そ、それは……」
「それは?」
グレッグは素早く頭を巡らせてボクが納得しそうな言い訳を考えている。
それほど間を置かず、グレッグは言った。
「あ、明るい、から」
「え?」
「外がまだ、明るいから…………ッ」
自分で言ってて、恥ずかしくなったんだろう。言いながらグレッグの顔が段々と朱に染まる。
視線を合わさないよう、外された横顔が恥じらいを含んで……何か、何だか……ッ。
「……グレッグ……」
「……その、今のは無かったことに……」
そうだよね。あり得ない。そんな可憐な乙女みたいな言い訳、あり得ないよね。
判ってる。
判ってるんだけど……!!
「グレッグ、今のもう一回言ってくれないかッ!?」
あり得ないけど、なんていうか、こう、クるものがあるんだよッ。
「……!?
……無理だッ!!」
赤い顔のまま、ボクと顔を合わせて言い放つが、そんな言葉で引き下がれない。
「もう一回!
そしたら今は止めるからさ。ね?」
そんなのどっからどう見ても本気で言ってるわけじゃないのなんか百も承知だけど、思わず騙されたくなるくらいクリティカルヒットしてしまった。
ねえねえ、としつこく強請ってみる。
「……あ」
「うんうん」
「……明るいから嫌だ」
「そうだね!明るいのはよくないよね!
ちゃんと照明落として、夜景の見える豪華なベッドの上がいいよねッ」
「誰もンなことは言ってねえ……ッ」
「え?明るいところでもいいの?
なら今から……」
「……違……ッ」
「違うのかい?
何がどう違うの?」
「……しつこいぞ、お前……ッ!!」
「ほーら。言ってよ、グレッグ。
何が嫌なんだい?」
「……もう勘弁してくれ」
チャックは羞恥プレイを覚えたッ!
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