疲労トーク




 内側から圧迫していた物が引きずり出される感覚に、反射的に身体が震える。
 堪えようとする思いに反して、力は入らない。繰り返すたびに、力は抜けていくばかりだ。
 気持ち悪いのか、心地よいのか判然としない。
 やたらと身体が熱い。
「……グレ……ッグ……」
 擦れあう粘液と、肌のぶつかる音にかき消されるような、細い声が唸る。
 足の間に身を埋めているチャックの声だ。
 何が楽しいのか全くわからないが、チャックはこうしたことを、してくる。
 仰向けに転がされた俺の身体を開いて、そこへ自身をもぐりこませる。
 どうせ抱くなら女の身体にしとけばよいものを。何を好き好んで男の、筋張った身体にこんな真似をするのか。
 親の愛情を求めるようなもの。
 縋りつけるものが近くになかったせい。
 そんなところだろうか。
「ンンッ……!」
 内壁に擦りつけられた先端が前立腺を掠めて、思わず声が出た。
 変な声だ、と思う。
 くぐもった、低い声がきこえて、それが自分自身の発したものだと知っていても、そう思わずにいられない。
 よく萎えないものだと、妙に感心してしまう。
「……ッは……」
 情事特有の掠れた声が上から降る。
 少し、チャックの様子が気に掛かって、引き結んだ目蓋を開けてみた。
 うっすらと膜が掛かった視界。ピントの合わない写真のような景色の中に金色の細い糸が揺れる。
 だんだんと焦点が合ってくる。
 身体の中を動くソレにあわせて動く髪。
 俯いた顔は、見知った優男風の線の細い作りで。
 身体も俺に比べれば随分と細身のはずだ。
 なのに、荒く息を吐く姿は。
 背筋がぞくっと粟立つ。
「……グレッグ、ちょっと締めすぎ……ッ」
 動けないよ、と情けなくも理不尽な要求を突きつけてくる奴のことなど、今は構っていられない。
 さっきの顔と、今のセリフが一致しない。
 あの、真剣な面持ちで、やたらと男くさい精悍な表情と。
「うえッ!?」
 泡を食ったような声が肩の向こう側から聞こえるが気にしない。
 無性に顔を見られたくもなかったし、チャックの顔を直視できそうになかった。
 いかんともしがたい脱力感に抗い、どうにか向きを変える。その動きで、入っているモノが内部を刺激してくるために、なかなか上手く行かないが、これで顔を見られずにも、見ずにも済むだろう。
「……後ろからが良かったのかい?」
 後ろにバカなことを言うバカが居る。
 色々と限界過ぎて、突っ込む気力がないのが口惜しい。
 先に言っといてくれれば協力したのになんて言いながら止められていた律動が再開させた。
「…………く、はァッ……!」
 動きやすくなったせいか、さっきよりもずっと激しく打ち付けられる。
 その上、届かなかった奥のほうまでねじ込んでくるのだから、耐え切れず、身体を崩した。
「ん……グレッグ……、…………い…よ」
 結合部分から起きる音のせいか、チャックの声が途切れ途切れに聞こえる。
 いい、とでも言ったのだろう。
 楽しんでいるなら、行為に到る理由など理解できなくても良いか、と思った。
 少なくとも……こちらも悪い気はしてないわけだから。
 再び、チャックが吐息に紛れて何かを言う。
「グレッグ……、……かわいい、よ」
「ひァッ!?」
 熱の塊が内部を行き来しながら、そんなことを言われて。
 驚きすぎて声を抑えるのを失念してしまった。
 俺も驚いたが、チャックも驚いたようで、動きが止まる。
「…………今の」
 流石に萎えたかと思ったが、中で感じるソレはそんな素振りは見せていない。
 けれど、動きだす様子もない。
「……もっかい聴かせてよ」
 あれを?冗談じゃない。
「あんな、気持ち悪い声出せるかッ」
 鼻から抜けたような、くぐもって、普段とはかけ離れた、あんなもの。
 聴いて楽しいものでもないだろうに。
 そう言うと、チャックはええーと不満そうな声を洩らした。
 振り返れば、おそらく眉を八の字にしているところだろう。
「気持ち悪い?どこが。
 かわいかったのに」
「か……ッ」
 こいつの感性はどうなってるんだ。
 理解不能すぎて頭がくらくらする。
「もう、いいよ。それなら出るまでがんばるからさ」
「……んッ……」
 急にまた、動きを再開させる。
「ほらほらほらッ。
 声だしてー」
 子供のように駄々を捏ねるくせに、その強請りかたは子供らしからぬ方法だ。
 がっしりとした手が腰を掴んで、細い身体つきに似合わない粗雑さで欲をぶつけて来る。
 似合わないのはそれだけじゃなく、アレもだが。
「……う……あぁ……ッ」
 終わりが近く、もう抑えきれなくなってきた声が息と同時に吐き出される。
 背後からはチャックの息遣いと、名を呼ぶ声。そして耳を覆いたくなるような水音。
 するり、とチャックの手が俺自身に触れる。
 両側からの攻められて、身体がびくついた。
 弓なりに沿らせた背に唇が触れる感触。
「かわい……」
「……ッ!!い、……うッ」
 背筋にこそばゆい感覚が走りぬけたかと思うと、瞬く間に快感が駆け上がっていく。
 チャックの手のひらを感じながら、短く呻いて白濁を吐き出した。
 どくどくと液を流す勢いに合わせて自身が震える。
「ボク、も……ッ」
 続いて、内側は逆に液体がごぽごぽと流れ込んで来た。




 太股の内側を白い液がつう、っと流れ落ちる。
 ん、と小さく啼くような声を上げるときのグレッグは、ボクよりもずっと年上で、大きいなんてことを忘れてしまうくらいかわいいと思う。
 思う、なんてことじゃなくて絶対そうだ。
 でも賛同者なんていらない。知ってるのはボク一人で充分。


「だよねえ?」
「だから何がだ」





深い意味などないです(いつものことよ)


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