妻と子供を殺されてからというもの、向けられる視線は全て冷たかった。
人殺しの汚名を着せられ。
それも愛する妻と子を殺したという罪で。
だが大事な、俺の命よりも大事な二人を守れなかったことが罪だというならその汚名さえすすんで被ろう。悪し様に罵られることすら厭わない。
けれど俺から大事な宝であった二人を奪ったのは間違いなく、ヤツだ。
大切な物を失った俺に残されたのは、ただひとつ、復讐のみだった。
復讐の名の下に、ヤツを殺すためにと、各地でゴーレムをクラッシュして回った。
ゴーレムを破壊すればするほど、余計に風当たりは強くなった。
罪状が重なる。
ゴーレムを発掘するのにどれほどの時間と労力が必要なのか、知らないわけではない。
ハンターだけじゃない。発掘作業に関わる人々からも恨まれて当然なのだ。
だが、それすらどうでも良かった。
何があろうと、生きて、ヤツをこの手で殺すと。
何よりも大事な二人に誓ったのだから。
それまではくたばったりはしない。出来るわけがない。
どれほどの恥辱を与えられようとも、耐え抜いてみせる。
そんな中で、何よりも大事な息子に似た瞳をした男と出会った。
今まで見てきた誰とも違う、真っ直ぐな眼差し。外界の汚れなど知らないひたむきさと正直さが眩しくて、心惹かれた。
彼らは俺が指名手配犯だと知っても、蔑みもしなかった。
久しぶりに向けられた暖かな視線と旅をしていくうちに、情が移る。
まだ若い彼らの行く末を気にし、気がつけば、大事な物を手にしていた。
彼らの命だ。
また、俺は自身の命よりも大切なものを得たのだ。
もう2度と得ることなど叶わないと思っていた、大切なものを。
それに引き合わせてくれたディーンには感謝している。
チャックは。
初め、何を人を睨んでるんだと思っていた。
しまいには殺気まで飛ばされて、どこかしら、まだハンターとして許せないと思っているのかもしれない、と考えていた。
だが、そういうヤツでもないし、向けられた視線は冷たく、射抜くものでもなかった。
その、逆だ。
熱を帯びた、眼差し。
暖かいものではない。むしろ火傷しかねないほどのもの。
何を思ってるのか解らなかったが、そう、悪い気はしなかった。
ただあまりにそれが日増しに強くなっていくものだから、つい、訊ねてしまった。
「……チャック、お前言いたいことがあるなら面と向かって言え」
「…………え?」
ぽかんと見上げられて、唐突すぎたかと内省する。
改めて問い直しても、意識があさってを向いているだろうことは見てとれた。
「で、何なんだ」
「え、ああ」
いまだ宙を浮いたままの目線が、一瞬かち合って、その拍子にチャックの口から言葉が滑り出た。
「好きです付き合ってください」
抑揚のない声で発音だけつなぎあわせたようだった。
おそらく、自分でもなにを言っているか解っていないだろう。変わらず呆けた表情を浮かべている。
そして、俺もなにを言っているのか解らないままに、返事をしていた。
「ああ。いいぜ」
ようやく、理解が追いついた様子のチャックが慌ててしゃべる。逆に、俺の理解が付いて来ていない。
「グ、グレッグ、いいいまの」
「だから、付き合うんだろう」
「ちょっとそこまで買い物とかじゃないからねッ!?」
「解ってるに決まってんだろ」
「なん、なんでそんなに落ち着いて……!?」
「……今のは間違いか。なら聴かなかったことに」
「間違いじゃないッ!!」
強い勢いで、否定した。
間違いじゃないと。
そしてまた、あの視線を向けられる。
他の誰とも違う、ディーンとさえ、異なるあの目。
青いくせにどうして熱い、と感じるのだろう。
そう、か。
ここまで来てやっと全ての理解が追いついた。
求めていたからか。
あの熱い眼差しも。
言葉も。
それに無意識で頷いたということは……。
「話はそれだけか?
ならもう行くぞ」
顔が熱い。
意味が解った。
気づいた。自分自身の想いにさえ。
……こんな顔みせられるかッ!!
後ろでチャックが叫んでいるが振り返らない。振り返られるはずもない。
火照る頬を冷ますような、冷たい風があり難かった。
「ディーン。待たせたな」
「いいって。それより何の話をしてたんだ?」
素朴な疑問だというのに、何か深い意味があるんじゃないかと勘繰ってしまいそうだ。
目を合わせて答えづらくて、悪いと思いながらも顔を背けながら、動揺を表に出さないよう気を配り、言った。
「つまらない話だ。
大したことじゃない」
笑ってやってください……
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