「やあ、ジェット!
ちょっと久しぶりだねえ」
クレイボーンに着いた途端に馴染みの顔がひょっこり現れる。
細目で何を考えているのか底が知れない茫洋とした顔立ちの、けれどその実単なる想い出マニアだ。
声を掛けられて、ジェットはいかにもうんざりだ、と言わんばかりの様子で駆けてくるのか、歩いてくるのかすら判然としないパイクをとりあえず見ている。
出会って逃げたりしないのは、逃げるのが面倒だからなのだろう。
近づきもしない代わりに、遠ざかりもせずただ、足を止めて待つ。
億劫そうに待っている様子のジェットに、パイクではなくて、ヴァージニアが切れた。
「もー!ジェットってば!
折角友達と会えたんだからもっと嬉しそうな顔をすれば?」
「誰がッ!大体、誰と誰がトモダチなんて間柄だって言うんだ、お前は」
「おいおい、そりゃねーぜ。
なあ、ジェットのお友達」
からかいが9割9分で占められたギャロウズの言葉に、困るでもなくパイクはあは、といつもと変わらぬ顔で笑った。
「ちょっとつれないですよねー」
「ほらッ。
ちゃんとしないと大事な友達に嫌われちゃうわよ」
「だから……ッ」
「まあ、積もる話もあるでしょうが後にしませんか?
先に宿をとりましょう」
クライヴの提案に、あっとパイクは声を出して頭を軽く下げる。
「引き止めてすみませんでした。長旅ですもんね。お疲れさまです」
本当にすまなく思っているのかどうかも窺い知れない表情だが、おそらく、たぶん、偽りないだろう。同じくポーカーフェイス気味のクライヴが笑顔でいいんですよ、と手を振り返す。
「ごめんね。ちょっとジェット借りていくわ」
「いいえ、どうぞどうぞ」
「俺は物かッ!?」
それでもチームリーダの意向か、はたまたこの場から逃げ出すには持ってこいだったせいか、ヴァージニアに引かれるがまま、ジェットは大人しく付いて行く。ギャロウズ、クライヴも年少組みの様子を面白そうに、あるいは微笑ましげに見つめて後ろを歩く。
パイクは彼らをにこにこと笑って見送ると、馬小屋に踵を返した。
「あのねー、ジェット。
もう少しなんとかしたほうがいいんじゃないの?」
「まだ言うのか」
ジェットはげんなりと肩を落としながら、片手を振って拒絶の意を表す。
宿を取って、荷物を整理してる最中の男部屋に現れたヴァージニアは、ベッドに腰掛けて荷物を広げているジェットを見下ろし、とうとうと語る。
「ものすっごーく貴重な友達なんだから、大事にしなさいよ」
「だから、トモダチなんかじゃねえって……」
「でも実際、もう少し丁寧に扱ってもいいと思いますよ?」
「アンタまで言い出すのかよ……」
同じように荷物整理をしていたクライヴとヴァージニアに両側からよってたかって攻撃され、どこかに逃げ出したい心境に駆られる。
が、逃げ出すのは彼の矜持に合わない。
そのうえ助け舟はどこからも出そうになかった。
唯一攻撃してこないギャロウズはといえば、見世物を見物している気分でこちらの様子を見るばかりで、助ける気は皆無のようだ。
「僕らは、まがりなりにも賞金首ですから。
それを知っての上で交友関係を維持してくれるなんて、貴重だと思ったほうがいいです」
一時期に比べれば今は沈静化しているが、それでも未だ彼らは賞金首として追われる身だ。
元から彼らをよく知っている人々は、賞金がかけられた理由を知っても彼らを悪者と思わなかったが、身内でもない一般人は避けて通る。悪党呼ばわりもしばしばだ。
元々面識があったとはいえ、変わらぬ態度で接してくれることは有り難かった。
パイクにとって重要なのは想い出に関することのみでそれ以外はひたすらどうでもいいのかもしれないが。
「ジェットは雑すぎるのよ。
そのうち愛想つかされても知らないんだから」
「あれが、あのくらいで愛想つかすようなタマなら元から近寄っちゃこねえよ」
「そりゃそうだ」
ジェットの切り返しに思わず笑えば、ヴァージニアが鋭い目で睨む。
ギャロウズは、すぐさま笑いを潜めてそろそろと両手を挙げ、降参した。
と。
コン、コン。
木製の扉を叩く音がする。そして。
「ジェット君、いますかー?」
「君ってなんだ、君って!」
思わず突っ込みながら扉を開ける。居たのはやはり、パイクだ。
相変わらず表情の読めない顔で立っていた。
「あれ。なんで皆さん笑ってるんですか?」
「お前のせいだろうがッ!!」
ジェットのうしろにいる面々は、必死で声を押し殺して笑いを堪えていた。それが余計に腹立たしい。
「君、どこか行くの?」
パイクの横を素通りして廊下へと出て行くジェットの背中に声を掛ければ、首だけ捻ってパイクを振り返り、言った。
「中に居ると他の連中がうるさいんだよ。
外行くぞ」
「あ。うん。判った」
パタン、と扉を閉めた途端、はじける笑い声。
前言撤回。声が聞こえていたほうが余計にムカつく。
遠ざかる笑い声を否が応にも耳にしながら、外へ向かう。
道すがら、後ろの気配に向かってジェットは問いかけた。
「俺は人殺しの賞金首だっていうのに、よくもまあ、懲りずに相手にするな、お前」
少しだけ脅すように、わざと低音で吐き出したセリフに、パイクは平素と変わらぬ口調でへら、っと返す。
「賞金首になった友達がいるって、すごいことだよね」
「…………大物だな、お前」
「それにね。
君たちが人殺しだなんて、僕は思ってないから」
「…………そうかよ」
パイクのキャラをこんなんだと思ってますが何か間違ってますか(全部)
ついでにパイクがヴァーにも敬語なのは趣味です。
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