「グレッグ、悪いけどチャック起こして来てくれる?」
しっかり者のレベッカに言われ、本心では断りたいと思っていても、
「解った」
と答えてしまうのは悲しいことに、自身が大人として果たさなければならない役割を弁え過ぎているためだろう。
溜め息を押し隠し、グレッグはテントの中に入る。
一番小さいキャロルでさえもう起きているというのに、いつまで惰眠を貪っているんだと怒鳴りたい相手の側に立った。
「……起きろ、チャック」
グレッグは立ったまま呼びかける。当然のように足元ですやすや寝息を立てるチャックが起きる気配はない。
嫌々ながら、腰を下ろして肩を揺さぶる。
「起きろ」
ううん、と拒むように身をよじってみせるが、確かに覚醒に向かっている。
深い寝息が浅い呼吸に変わるのを確認して、チャックから離れようと、した。
しかし、一足遅い。
グレッグが離れるより早く、チャックの手が伸びる。
手をグレッグの首の後ろへと回し、強引に引き寄せると、唇を合わせてくる。
制止の声も文句も飲み込むように合わせたまま、離さない。
懸命にもがくグレッグとは裏腹にチャックの手は、頭をがっちり押さえておく一方で残った手をグレッグの厚手の生地に包まれた臀部を撫でる。というかわしづかむ。
指先で、掌で弾力を確かめるようないやらしい動きだ。それだけでも耐え難いというのに、手はズボンの縫い目に沿って降下し、何やら危うい所の周囲で円を描き出す。
「いい加減に、しろッ!」
ガツン、と痛そうで固そうな音が両者の頭からする。
「あー…おはよう、グレッグ」
赤い額を手でさすりながら、チャックは言った。
手を離した隙に飛びのいたグレッグに向かって。
「寝ぼけるのもたいがいにしろ」
グレッグは、照れなど微塵も含まず、静かに怒っている。
怒られてるはずのチャックはというと。それに、へらっと笑って返した。
「うん、ごめんねえ」
反省の色皆無の顔で。
テントから出て、降り注ぐ日光に目を細める。
外には朝食と出発の準備を進めるほのぼのとした情景が広がっていた。目の前に広がるのは、さっきまでの非日常ではない。
その優しい光景にグレッグはひとり、心を慰めた。
寝ぼけてやったら少しはマシかと思ったら余計にタチが悪かった
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