「月のない夜は気をつけろっていうけどさー、別にあってもなくても一緒だと思わない?」
「……何の真似だ、チャック」
「何の真似って……解らないわけじゃないよね?いくらなんでも」
「解ってるから、訊いてるんだろうが」
仲間が皆寝静まった後、グレッグを起こして話しかけた。相談があるって言って。
そのときはまだ、ただ話すだけだった。
本当に相談するつもりで。焦って失敗するのも嫌で、だけど焦らずにはいられなくて。
年上で少なからずこういった経験もありそうなのがグレッグだけなのがなんともし難いけれど。
ルシルのこととか、女々しいかもしれないが話そうと思ってた。
きっと聴いていてくれる。
そう思っていざ切り出そうとした途端、全部ご破算になった。
気がついたら、足払いをかけて転ばせた上に圧し掛かり、襟に手をかけて脱がそうとしてるんだから驚きだ。
……なんだってボクはこんな野獣のような真似をしてるんだろう。もっと理性ある人間だと自負していたのに。
今まで一度だってルシルにこんなこと……以前の、手を握るとか、そんなことですらしたことなかったのに。この状態の十分の一でいいから積極的に働きかけてたら……と思うと辛い。
いや、そもそもボクはルシルに限らず女の子をこんなところに呼んで二人っきりになったりはしなかった。
何てことだ、これがそもそもの間違いだったのか。
「手を離せ、チャック」
全然甘くもない声でボクの名を呼ぶ。そのくせ脳をじわじわ侵食する。
「そうしたいのは、やまやまなんだけどね」
言葉だけは普段と変わらず吐き出されるが、言葉を作ってる頭はパンク寸前だ。制御がきかない。
「身体が言うことをきかなくてさ」
操られるように手が動く。あまりにも滑らかに、指の先にいたるまで完全に何者かに支配されてるよう。感覚はボクのもので、指先から感じるボクじゃない体温が、肌が、この上なく気持ちいい。
誰かが支配してる、なんてそんなはずない。
ボクが動かしてるんだ。
誘惑に突き動かされるまま。
焦燥に煽られて。
「ホント、振り払ってくれて構わないから」
逃げて欲しい。
逃げないで。
二つの言葉がぐるぐる回って、せめぎ合って、逃げ場をなくして、ただひたすら巡り続ける。
「……お前は、どうしたいんだ。何が言いたい?」
頭の中だけがグレッグの言葉に動揺する。けれど、手足は鈍ることなく、忠実に動いている。
どうしたい。何が、言いたい。
返事すら、自分の心すら定まらず、不定形のまま揺れ動いて、そしてようやく、口にした。
「……ごめん、今は」
まだ。
まだ、はっきりと、していないんだ。
ズボンと下着を一緒に脱がせて、膝を割る。
中途半端に下ろされたズボンのせいで身動きはとりにくいだろうが、手は別に縛ってるわけでもない。なのに、グレッグは最初に見せた以外の抵抗はしなかった。
抵抗しないのを良いことに、曝け出された彼の自身を手に取り口に含む。それまでグレッグからなんらかのアクションは何一つなかったけれど、流石にこれには身体をびくりと震わせた。声は、出ない。
先を含んで舌先で先端をつつき、空いてる手でふとももの内側をゆっくり撫でる。
「……くぅッ」
刺激に緩く勃ち上がり始めると同時に、抑え切れなかった音が唇の間から漏れ出た。その押し殺した声だけで、こっちはヤバイとこまで来てるってのに。
筋や括れを舌先でなぞるように舐め、唾液をたっぷり流して、同時に竿を擦る。
「……ッ、くぁッ……!!」
びくびくと腹筋が震え出す。大分我慢してるみたいで、咥えながら我慢しなくてもいいのに、と独り言のように呟いた。
「……るせぇ……ッ」
まさか返事が返ってくるとは思わなかった。
ぐちぐちと卑猥な音を立てて擦り続けながら、頃合だろうと、ボク自身を取り出す。
「大丈夫、ヒドイことはしないから」
グレッグのにボクのを擦り合わせて、握る。
「はッ……はぁッ……」
「…………ッう」
これでもどうかなあとは思ったけれど、萎えなかったみたいで安心した。もし、グレッグが萎えていたとしてもボクのほうは止まらなかっただろうけど。
ボクの唾液やお互いの先走りで滑りがいい。擦れあわせるだけなのに、一人でするより何倍も気持ちがいい。
グレッグの感じてる顔をみていることも大きな要因だろう。
ぞくぞくする。
もっとしたい。もっと、歪ませたい。
でもそれは、まだ。
だってまだ形にすらなってないんだから。
「……出るッ」
「…………!!」
どろりと指の間から白い液が零れ落ちる。どくどくと脈打ちながらしばらく放出の快感に酔う。
「……一緒に出した、よね」
「…………」
いつもより量が多かったし、グレッグのもびくびくと震えてたから、確認の為に問いかけたのに、無視された。
上気した顔が横を向いて、ボクと頑なに視線を合わそうとしない。
それはただ、いつもするような顔の背け方で、こんなことをしたくせに嫌われていないことに安堵する。
「ごめん」
「謝る必要はない」
間髪いれず返された言葉に、どうしようもなく甘やかされてることを知る。
知ってるよ。
キミが別に望んでたわけじゃないことぐらい。
ごめん、ともう一度だけ、胸の中で謝罪した。
もう少し、その心に甘えさせて、と。
振り払ってくれて構わないから。
そう言ったチャックの顔は泣きそうに歪んでいた。
振り払い、この場から去った瞬間に姿を消しかねないくらいに切羽詰った表情で、どうして振り払えるというんだ。
無茶を言いやがる。
するがままに任せた。下手に行動するほうが危険に見えた。
チャックは、情動に完全に流されてはいない。
目にも理性の光が見える。ただ、扱いかねてるだけだ。
だから。しばらく。
落ち着くまでは。
必死。
・感度低い受けも好きです
・操ってんのは書いてる奴、とか突っ込んじゃ嫌です
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