一歩さがって、見渡した世界はどこまでも暗いと知る。
怯えながら生きることの限界は、もうすぐそこまで来ていた。
あんなことがあったにも関わらず、グレッグは以前と全く変わらなかった。
心中までは計れないが、少なくとも、見た目には判らない。
昨日までと同じような態度で来られて、逆にボクのほうが挙動不審になったものだ。
何もなかった、なんてことないのに。
ボクは、あんなにもはっきりと覚えているのに。
うそ寒い想像が湧いてきて、まさか、と思って見れば、ほんのわずかに眉を寄せてみせた。
「……落ち着け」
その言葉に、想像は打ち消され、確信する。
彼は覚えてる。
覚えていてもなお、仲間として、ボクを信頼してくれている、と。
反射的に謝罪を口にしそうになって、なんとか押し止めた。
他の皆がいるこの場所で、妙な態度をとれば勘繰られることは必至だ。
だから、黙っていなくては。
なんでもない振りをする。
それが、一番だと知っているから。
「チャック、どうかしたのか?」
「いや、なんでもないよ」
問題になる相手はグレッグだけで、ディーンたちにはごく普通に話せる。取り乱すこともない。
グレッグも解ってくれているらしく、わざとボクから距離を置いてくれた。
きっと、普通に対応できるまではそうしてさりげなく距離を取ってくれるのだろう。
彼の気遣いが有り難くて。
けれど、『なかった』ようにされるのは、辛かった。
シチュエーションは前と同じ。
それなのにグレッグは躊躇いもなく、ボクの言葉に頷いて付いて来てくれた。
ボクが言えたことではないのかもしれないけれど、こうも信頼していいのだろうか。
大事な仲間にいきなり襲い掛かるような真似をした、このボクを。
それだけ信用されてることを喜んでいいものか。
あるいは、悲しむべきなのか。
だが、話すら聴いてもらえないよりは、きっとマシなのだろう。
ひとまずはグレッグの寛大さに感謝する。
太い木に背中を預けて立つグレッグを前に、ボクは手を合わせて謝った。
「この間は……本当にゴメンッ!!」
こんなことで許されるはずなんてないだろうが、それでも謝らずにはいられない。
「謝らなくていいといったはずだ」
「だけど、あれは……」
あんな真似、するつもりはなかったと今更言っても嘘にしか聞こえないのは判っていた。
ただ話をしたかっただけなのに。
いくら弁解しても時間が戻るわけでもないけれど、どうしても、最低なヤツと思われていたくはなかった。
グレッグは大人だから、そういったモノを表に出さないだけの理性がある。
心の底では軽蔑されているのかもしれない、と思うと堪らなかった。
詫びのつもりで頭を下げたが、頭を上げられない。
再び見た顔に、嫌悪の表情があったら、耐えられそうになかったから。
長いような短いような沈黙の後、グレッグの口から吐息が漏れた。
「気にしなくていい。
お前が……どういうヤツかは判っているつもりだ」
その言葉にどれだけ安堵しただろう。
嫌われてない。
離れなくてもいい。
無くさなくても、いい。
足から力が抜けそうになる。
安心して、それから自身の情けなさに、笑いがこみ上げてくる。
ふとすれば零れそうな涙を抑えていたとき、続く言葉に耳を疑った。
「それに、こんなことじゃあな」
「…………え」
何の話だろう。
涙さえ乾く。
思わず顔を上げて、問うた。
「どういう、意味だい」
「別に怒るほどのことでもないと、思えるだけだ。
……復讐をする、それ以外は……どうでもいい」
くらりと、目の前が暗くなる。
彼は、グレッグは。
復讐だと言った。
ずっとずっと復讐に囚われているのだ。
それ以外の何物も、意味を為さないほど。
自分の身すら、どうでもいいほどに。
気づいているのだろうか。
其れを語る彼の眼はあまりに暗い。
暗く、澱んで、翳っている。
その眼はまるで死人のよう…………
ボクはまた一つ過ちを犯した。
こんな暗いところを選んでしまった。
真っ暗で、そして目の前には死人の目が、ボクを、見て、だから、それは、あの日の、暗い、赤い、血の、においが。
幻だあんなの何年も前の話じゃないかそれにグレッグは生きてる父さんみたいに赤くなくてでもどうして彼は生きながら死人の眼をしているんだ!!
「…………ッ、チャックッ!?」
「…………嫌だ」
背中を強打しただろうにすぐ起き上がろうとするグレッグを押さえ込んでその上に乗る。
抵抗しようとする腕を押さえつければ、その顔が痛みに歪んだ。
「嫌だ、そんなのは……ッ」
失いたくない。
死人の眼なんて、もう見たくない……!!
肌の露出しているところから手を差し伸べて暖かい肌の感触を確かめるように撫でた。
喉元に手をやれば頚動脈が脈打つのがわかった。大丈夫だ、彼は生きてる。
首を触られて、わずかに身体が緊張して、ぴくりと動いた。
その動きに誘われるように鎖骨を下り、服の隙間に手を入れる。
ジッパーがジジ、と音を立てて降りていく。
心臓の真上に手を乗せると、力強い拍動が手のひらに伝わる。
生きている証。
まだ、ボクは失くしたりしていない。
「……チャック……ッ!」
掠れた声が聞こえる。
呼ばれて目を合わせれば、グレッグが焦ったような顔をしていた。でも、その眼の奥にはまだ暗い影が潜んでいるように見える。
それは嫌だ。
それが、彼を連れて行ってしまう。
暗い影から目を背けて、また、肌に視線を落とす。
こっちには影なんて潜んでない。
手を触れれば暖かくて、その皮膚の下には血が流れて命をつないでいる。
暖かくて、安心する。
生きている証拠をもっと、確かめたい。
顔を胸の上に寄せて突起物を舐め上げた。
大げさなほど胸の筋肉が震えて、生きてるんだってことを知らせる。
それが嬉しくて、その胸を、鎖骨を唇で吸い上げ、ぷくっと膨れた突起を指でいじる。
「……ッぅ」
小さな声が、時折聞こえるだけなのが不満で仕方が無い。
もっと、もっと。
「……声、出してよ」
じゃないと死んでると勘違いしそうだよ。
だってまだ虚ろな影が眼にあるから。
「ッく、ああッ」
突起を軽く歯で噛めば、抑えようの無かった声が上がる。
「ダメだって。まだ、そんなんじゃ」
死人の眼がちらついてる。
もっと乱さないと。
吸ったり噛んだりを繰り返して、胸に愛撫を施しながらズボンに手を掛ける。
ズボンの上からソコを手で撫でるとかなり限界まできてるみたいで、大きく膨らんでいた。窮屈そうなソレを解放してやれば、先走りがてらてらと先端に濡れた光沢を放っていた。
ぎゅっと片手でグレッグのソレを握り、上下に擦る。
小さく息を繰り返し吐き出すグレッグの呼吸を聞きながら、鎖骨からゆっくりと舌を腹部まで這わせる。
身体の筋に沿って舌を動かせば小刻みに身体が揺れ、手の中で握りこんだモノも耐え切れないとばかりに汁を零す。
ぐりぐりと親指で先端の窪みを刺激し、裏筋を舌で舐める。
「くぁッ……はッあ、出、る……ッ」
最後に素早く擦り上げれば、グレッグのソレがびくびく震えながら白い液体を吐き出した。
ボクは、グレッグの吐き出したモノを手にべっとり塗りつけて、まだ綺麗な方の手で自分のズボンを下ろして、既に勃ち上がっている自身を握った。
「ッ……あ、グレッグ……ッ!!」
放出したあとの乱れた彼を目の前に、そして彼から出たモノを塗りこむようにして慰める。
グレッグが、半身を起き上がらせて、ボクを見る。
その眼に、暗い影がなくなってることを見出して、更に手の動きが早まった。
「……ッく!!」
そう、間を置かず。
ボクの欲望が吐き出されて、グレッグのソレと混じり合った。
どんどんチャックが受け臭くなってる気がする……(攻めです)
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