4 通わない擬似感情




 似ている、と言ったのは向こうが最初だったか。



「…………くぅッ……」
 背中に回された手が、背骨を伝う。密着した肌と肌の間に汗が流れて、隙間すらなくしていく。
 寄せられた顔が首筋に埋まり、ぴりっとした痛みを残して離れた。
 全身をまさぐられて、直接的で強制的な快感が引き出される。
 確かに。この行為に感じていると、グレッグは自覚していた。
 服で隠れるようなところにだけ情事の跡を残し、チャックはその噛み跡を舌で癒すように舐めた。ぴちゃり、と濡れた音が耳のすぐ側で聞こえて、何が行われているかを聴覚にも訴えかけている。
「……グレッグ……ッ」
 搾り出すような声がする。胸を締め付けるような、悲痛なほどの叫びで名前を呼ばれても、グレッグにはそれに応えられない。
 息も荒く、興奮を表す呼吸音がチャックの口から漏れ出る。
 興奮を促すような行為をされているのはグレッグだけだ。なのに、チャックはすること、そのものに感じている。
 重ねあった身体に互いの高ぶった熱が伝わる。グレッグの足の付け根に押し付けられたチャックのソレは、布越しでも十分に猛っていることが判るほどだ。
 脇腹を擽るように手がそうっと撫でる。
「……はッ……!!」
 ぞくり、と快感が背中を突き抜け、身体がしなる。
 何度か繰り返されるうちに、チャックはグレッグの性感帯を把握したらしく、着実に高めていった。
 それともグレッグ自身が、チャックに、男にこうした行為をされることに慣れたせいなのか。
 一度目も、二度目も、事故のようなものだった。
 それから幾度同じ事を重ねたか。五回を越えた時点で数えるのが嫌になった。
 同じ事を繰り返すのは、振り払えない理由が同じだからだ。
 焦らすように周囲に愛撫をしていた指と口が唐突に、激しく中心を攻め立て始める。
「くッ……!!」
 じゅぶじゅぶと音を立て、足の間に顔を埋めるハニーブロンドの頭が視界の隅に入る。
 グレッグは声を押し殺しながら、チャックに手を触れないように自分の腕を押さえた。
 ともすれば、その頭を押し付けたくなる衝動を抑える為に。
 それ以上に、振り払いたくなるどうしようもない嫌悪感を抑える為に。
 拒絶するべきではない。
 してしまったときにチャックが浮かべるだろう表情を、取り得る行動を、まざまざと脳に浮かべることが出来る。
 呆然と眼を見開いて、その眼の中に虚無を湛えて、そうしてここから、仲間からも去っていく。
 チャックには身内としての好意くらい持ち合わせている。たとえ、意に沿わないことがあったとしても、だ。
 傷つけたくは、ない。
 今のチャックには、そうして拒絶されることに耐えられるだけの精神力がないのだ。
 ならばこちらが耐えればいい。
 哀れだと思うなら。
「…………声」
 グレッグのソレに触れ、裏筋を指で扱きながら、チャックが何事か言う。
 快感と理性と嫌悪で意識が朦朧とする中で、不思議とその声ははっきりと聞こえた。
「声、聞かせてよ」
「…………ッあ!?」
 強く握られたその直後に舌先が尿道を刺激する。
 がり、と軽く先に歯を立てられた途端にあっけなく、堪えていたモノが外に流れ出した。
「あー……苦ぁ」
 グレッグが出した液体をほとんど喉の奥に流し込んだあと、一言呟く。
 霞掛かった頭が、ジッパーの下がる音を捉える。グレッグ自身の衣服はもうこれ以上ないほど乱れきっている。残っているのはチャックの服だけだ。
「ふッ、ああ……気持ちい……ッ」
 ねちねちと粘着質の音と、荒い息遣いが静かな夜に響く。
 あれからずっと同じ事をしている。
 チャックはグレッグに触れるだけ触れて、高めた後に、一人で慰める。
 この、繰り返しを。
 横たわるグレッグに、影が差す。
 チャックが上から覗き込んでいた。快感と、悔悟がない交ぜになった瞳で。
「…………グレッグ……!!」
 腹の上に熱い液体がかけられる。
 その熱さよりも、今は伏せられたその瞳に意識が向く。
 


 似ている、と言ったのは間違いどころじゃない。
 けれど、似すぎていて、だからこそ理解し得ないこともある。





ちゃんとふくせんはひろいましょう(忘れそう)

・腹にかけるとか萌えるけど嗜好がオッサンみたいだよチャック(え?)
・グレッグさんはボランティアです。……それでいいの?と思わなくはない

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