口にすれば、これほど簡単に納得できたのに、どうしてあんなにも紆余曲折したのだろう。
その理由は自分が良く知っている。それでも、もっと早く。
気づければ良かったのに、と今更ながらに思う。
なにしろ、ようやくここから始まることができるのだから。
好きだと、自覚して口にしたその翌日。
グレッグの様子はおかしかった。
憎い復讐相手を追っているせいではなく、ボクのせいで。
間違えようも無い。
だって朝、顔を合わせた途端にあの大きな体が震え、動揺するのだから。
まさかボクもそんな反応をされるとは思わなくて上げかけた手が宙で止まる。
グレッグはというと、半歩下がって微妙な距離を開けてから、そこで初めて動揺してることに気づいたみたいで、帽子の鍔を下げて顔を隠し、挨拶を返した。その声すらも微妙にどもってる。
「……どうしたの、グレッグ」
レベッカが不安そうに声を掛けた。
「い、いや何でもない」
そそくさと、足早に去っていくグレッグをボクはぽかんと見つめた。
…………何で、今頃になって?
はじめの時ならまだしも、何で、今?
まるであのときと逆。
グレッグはボク以外であればいつも通りに振舞えて、ボクが少しでも近くに寄れば異様なまでに避ける。
明確な境界線でも引っ張ってあるのかってぐらい、避ける。
わからない……わからないな……。
なんだかどっかで聞いたことあるようなセリフを胸中で呟きながら、その日一日頭を抱えていた。
見てくれない、意識なんてしてくれないのも寂しいが、避けられるのだって物凄く寂しい。
自分の気持ちが分かったばっかりで、気づいたらそれこそグレッグが気になって気になってしょうがないっていうのに。
一体ボクが何をしたっていうんだろう。
……それまで色々したことは認めるけど、でもそれとは関係ない、はずだ。
ボクがいくら頭を悩ませたって答えなんて出るはずも無い問題だってある。
だから。
「なんで避けるんだい?」
単刀直入に訊いてみた。
グレッグは呆れ返ったような目でボクを見る。
事実、呆れ返っていた。
「お前な……分からないのか」
「解らないから訊いているんじゃないか」
変なこというなあ、と言えば、思いっきり睨まれた。
あれ、良くわからないけど、怒られてる?
「もしかして…………好きだ、っていったから?」
「それ以外に何があるんだ」
ドラマみたいに。
告白されてぎくしゃくするっていうのも、まあ、あるだろうと思う。
そういう時って大抵頬を赤らめたりするんじゃない?
なんで、天敵にあったみたいな避け方をされるのか。それが。
「解らないんだよねえ」
ぎろっと射抜くような目線が向けられる。うわあ、怖い。
「だ、だってさあ。
あの、ああいうことしちゃってる……いや、ボクが一方的にしたんだけど。してるのに?
言っとくけどボク、男に興味ないよ?」
「説得力はないが……まあ、そうだろうな」
「なのにそういうことしちゃうってことは、よっぽど好きじゃなきゃ出来るわけないじゃないか!」
そう叫べば、グレッグは呆れた表情の上に驚きを重ねる。
勢いに乗ったとはいえ、精一杯の言葉だ。
なのに、ざり、と土を踏む音。
また半歩グレッグがボクから遠ざかった。
「チャック……少し落ち着け」
ボクから距離をとりながら、キミはそんなことを言う。
気づいた気持ちがある。
もう、悔しい想いなんてしたくない。
焦って、もどかしくて、それでも怖れずにはいられない。
失くすことも。
認めることも。
「…………キミは、ボクの」
この感情を。
「否定するのかい」
他の誰かがそれを否定できるはずない。
これは、ボクの感情なのに。
「あれは……事故だ」
グレッグの指すことがどれなのかよく判る。
でもその意味は解らない。
「感情の暴走だ、と思っている」
「だから、許した?」
「…………それもある」
冷静になれば、決してあんなことにはならなかっただろう、と思う。
あながち、グレッグの言ったことは間違いじゃない。
けれど正解でもない。
グレッグが取った距離を埋めようと足を動かす。
逃げられる前に、言葉で動きを封じる。
「じゃあ、他の理由って……なんだい」
それは知ってる。知ってるけれど、彼の口から直接聞きたかった。
「拒絶に、耐えられないと」
「それは正解」
あの時ならなおさら。
そして、今もまだ。
どうしてボクも彼も気づかなかったんだろう。
拒絶されたくないのは、受け入れて欲しかったから。
胸が痛むよ。
好きな人から、拒絶されたら。
「ねえ」
卑怯者と罵るだろうか。
「今度も」
グレッグは逃げない。
「許してくれる?」
突き放したくてしょうがないだろうに、グレッグは必死で耐えていた。
決して自分から、何一つ行動を起こさないことだけが、抵抗の表れだった。
腿の内側を、一方は手でゆっくりと撫で、もう一方は舌でなぞる。
つつ、と舌先を尖らせて腿の線を辿れば、唾液でなぞった道が出来ていた。その濡れて光る線をもう一度辿ってみせれば、グレッグの腿がびくびくと震えだす。
「これ、そんなにイイ?」
見上げて問いかけても答えのかわりに吐息だけが漏れる。
息は荒い。かわいそうなまでに震えている。
グレッグは、今だってボクにこんなことされて悦んでるわけじゃない。
ただ、振り払えないだけ。
ボクは自覚した想いをまだ持て余している。
振られてしまうことにすら、まだ耐えられない。
見つけた気持ちを、好きな人を無くす準備ができていないまま、ボクは感情に振り回されている。
猛ったグレッグの中心を口に咥える。
馴れたものだ。どこをどうすれば感じるかなんて考える前に、口に含みながらすでに舌を動かす。
ボクも馴れたがグレッグも馴れてきている。
始めころよりいくらか反応がよくなってきてるのが判る。
ボクが、そうさせたんだと思えば堪えようの無い笑みが浮かぶ。
「……んッ……くあぁッ!!」
頭を前後に動かし、ストロークを掛ければ噛み殺した声と、途切れ途切れの喘ぎ声がした。
気持ちの通わない行為でも、生まれた声が愛しいと想う。
声を味わう余裕が生まれただけでも、随分マシかなと結論づけたあと、行為にひたすら専念する。
腿を、足の付け根を指でなぞり、グレッグ自身の口に含みきれなかった部分を擦る。唾液と、先走りが混じって勃ち上がったモノの付け根まで濡らす。
擦る手はそのままに、一旦中心から唇を離せばひっと、グレッグが喉が引きつったような声で啼いた。
見ればソコは限界まで腫れ上がっている。
再び口を寄せ、先を強く吸い上げれば、それに後押しされるように白濁があふれ出した。
「は、アァァッ!!」
びくびくとソレも、身体も震わせて放出する。
口内に出た液体を手のひらの上に乗せると、ボクの興奮しているトコロになすりつけた。
ぐち、と粘液の音が淫らに脳を侵す。
片手で自身を扱きながら、残った手をグレッグの顎にかけた。
上気した頬。
快楽の為にやや潤んだ瞳。
それをしっかりと視界に納めたまま、口付ける。
舌は入れない。
ただ唇同士を角度を変えながら、何度も何度も重ね合わせる。
手を忙しなく動かし、それでも口付けは止めない。
限界が近づく。動きはどんどん早まり、ようやく口を離して、そして。
「す、きだよ。グレッグ」
至近距離で彼の痛むような目を感じながら、ボクは欲望を飛ばした。
ちゃくじつにかいはつされていってます
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