死ぬことは怖くないだろうか。
彼にとって恐ろしいのは、死ぬことじゃない。
死はただひたすらに後悔だけを残す。遂げられなかった復讐を。
その先に死があろうとも、むしろ本望なのだろう。
暗い死人の眼を宿した彼の望みを、ボクは知らない訳じゃなかった。
知っていても、ボクは何をすればいいのか、分からなかった。
復讐を止めろと言う?
それは、彼に生を止めろと言うのと同じことだ。
じゃあ、仇を一生見つけさせない?
なんて酷い。それでは彼は永遠に救われない。
それにもうすぐ、ここを出れば『ゴーレムの左腕』を持つ男と出会うのだろうし。
ミラパルスからハウムードへと到る道の出口まで、あと少し。
どうしたらいいのか分からないまま、暗く、そのくせ燃え盛る炎に似た瞳で前を見据えるグレッグを見ていた。
そして、どうすればなんて鬱々と考えていたボクがばからしくなるほど、あっけなく導き出された。ボクじゃなく、ディーンと、アヴリルによって。
「グレッグが死んだら、オレがどれだけ悲しいかだってわかるだろッ!!
なのに、簡単に死ぬなんて言うなあッ!!」
敵わない。
嫌味も、悔やみもなく、そう思った。
初めて。復讐の意味も、その後に続くグレッグの人生を問われたのだろう。
彼自身も、復讐を遂げた後に、人生が続くのだとは思ってなかったに違いない。
復讐こそが彼も目標で、目的だった。
復讐だけが生きる意味で、価値で、それ以外に何も無かった。
でも、グレッグは得ようとしている。多分、まだ気づいてない。
新しい、生きる意味になるもの。
大切なモノを失くしてしまった彼の、新しい価値。
目標にはまだなっていない。
目的とも言えない。
大切な、ひとたち。
────ああ。こう、言えばよかったんだ。
アヴリルが問う。
ディーンが言う。
それを聴いて。グレッグにかけるべき言葉はそれだったと、今更、思い至った。
ならば。
ボクとして、ボクが言いたい言葉を。
言うことで彼を引き止めることができるか判らないけれど、今度はそれを求めて心を探る。
話、かけようと、した。
まだ探している最中だけれど、とにかく時間が無い。
あと少しでハウムードに着いてしまう。その前に、どうしても、何かを言わなければ。
だから何かを言おうとして、声を掛けて、そしたら、軽く払われた。
拒絶、するみたいに。
みたいじゃない。されたんだ。
「……悪い。ちょっと余裕がなくてな」
振り払ったことはグレッグ自身も驚いてるみたいで、一瞬自分の腕を見つめた後、謝った。
謝られても、困る。別にグレッグは悪くないし。
でも、頭がぐらぐらする。
今の今まで、どんなに彼がボクを甘やかしていたか、ようやく自覚した。
それは、そうだろう。
だって散々、彼の寛大さに付け込んで行為を強いていたのだから。
グレッグにそれを受け入れるだけの、余裕があったから、許されてきたんだ。
なのに振り払われて、それだけでこんなにも怖くなるなんて身勝手すぎる。
ボクだって、それぐらい解ってる。
解っていても、感情に理性は追いつかない。
だから、彼を見下ろす破目になるんだ。
「……チャックッ!!」
「ごめんね、ボクだって伊達にゴーレムハンターを名乗ってはいないんだよ」
不意を突いて、地面に転がす。
倒れこんだ彼の上に乗って手首を押さえつけた。
ぎり、と骨の軋む音がして、グレッグの顔が歪む。
「余裕、ないときなのに、悪いね。でも」
お願いだから、ボクを拒絶しないでよ。
それだけで理性を失くしてしまいそうになるんだ。
耳の裏を舌で嘗め回し、そのまま首の筋に這わす。
グレッグの体が、これからされる行為を思ってか、びくっと震えた。
鎖骨の窪みに吸い付いていると、ふと腕に抵抗を感じなくなる。
いくらなんでも快楽で力が抜けるには早すぎる。
放した途端、逃げ出されるかなと思いながら、そろそろと縛めていた手を外してみた。予想に反して、グレッグは逃げ出しもしない。大人しく組み敷かれてくれたままだ。
「抵抗、しなくていいの?」
訊いてみても、無言で返された。
ただ機嫌が悪くて押し黙っているんじゃなく、どちらかというと……何かを考えて、迷っているかのような表情を浮かべていた。
ボクには彼が何を考えてるのか分からない。
それに、いつ、逃げ出されるかと思うと背筋が凍る。指先が冷えて、心臓だけがどくどくとうるさく音を立てて嘆き出す。
迷う瞳は暗い影を落とす。
ボクは、まだ、それに怯えている。
死者の目に。
出来ることは、これまでと同じ、繰り返し。
熱くなって。ボクがすること以外、考えられなくなるほど。
震え、冷たい指で胸を撫でる。
冷たさにグレッグの体がひくり、と動く。
胸の突起を周囲から責め、寒さのせいか、あるいは快楽か、ぷくっと主張し出した胸の頂を指で捏ねる。ぴちゃり、とその先端を舐め、口に含んで弄べば、指でしか愛撫できなかった片側と明らかに反応の度合いが異なり出す。
手は、ゆっくりと胸から下って、下半身へと伸ばす。
ベルトに手を掛け、外そうとしたその時、興奮をもらす唇の隙間から疑いようのない音節が流れ出た。
「チャ……ック……」
止めろと、また言うのだろうか。
グレッグを見れば、彼は影を沈ませたままの翠の眼に、決意の色を滲ませてボクを見返した。
「…………悪い」
「嫌、だ。聞きたくない……!!」
ぎしり、と心臓が軋みを上げる。
呼吸が、上手くできない。
「……なくしたく、な……ッ!!」
「チャック、落ち着け。お前の考えてることとは、違う。だから……落ち着け」
地面に突いた腕に、グレッグの手が添えられる。
泣きそうだ。もしかすると自分で気づいてないだけで、ボクは泣いてるのかもしれない。
情けなくて、そして耐えられなくて、顔をグレッグに向けられないボクに、とつとつと、彼は言葉を落とす。
歯切れの悪い口調だったけれど、心を決めている様子だった。
「その……何だ。
今まで、だな、されるばかりでいた、だろう。
お前も……するだけ、して、自分は…………だった、から、な」
グレッグの言いたいことが、理解できない。
拒絶しようとしている、にしては不思議な言葉が続く。
「……なん、の話?」
ボクがグレッグを見れば、決まり悪げにあさってのほうを向いたが、その横顔はどうに戸惑って……恥ずかしがっているようにも、見えた。
恥ずかしい……ってこれが?
そんなわけないよね。それこそ今更じゃないか。
「だから、だな……」
なおもごにょごにょ口の中で呟いていたが、ようやくキレのいいセリフを吐き出した。
「最後まで、ヤってもいいって、言ってんだ」
「ヤって、って……ええッ!?」
ヤるって、最後まで?
最後ってことは…………
「い、いいの?」
「だから良いって言ってんだろ」
跳ね除けられると思ってた。
なのにまさか。その逆が来るとは。
別に、ボクのことを『好き』なわけじゃないのに。
……そうか。これが最後かも知れないから、か。
最後になるかもしれない、だから、ボクに何かを残そうというのか。
悲しいことだ、と思う。
そんな彼に。ボクが、何を言えるだろう。
「えっと、じゃあ、失礼します、っと」
動揺と緊張のせいで手が震える。
折角高めてきてたのに、ズボンを脱がすともうほとんど反応していなかった。
まずはそれを直接手で扱いて快感を強制的に引きずり出す。
いつもなら前戯である程度はするんだけど、今日はそんな前フリしてる時間が惜しい。
早く、早く。その次の段階に進みたくて、興奮してる。
「くッ、う……」
しばらく手で棒を擦り、舌先を尖らせて先端やら裏筋やらを刺激していけば、先走りが垂れるほどに大きくなった。
勃ち上がった中心の先に唾液を流す。白濁と混ざって重力に従い落ちて、塗らしていく。
にちにちとぬめる音を立てる手は止めないまま、唾液と先走りで濡れた窄まりの皺を指で解し、指を一本中へと……
「ちょ、ちょっと待て……ッ」
「え?今更おあずけ?」
酷いんじゃない、とグレッグを非難の眼で見れば、彼は興奮して赤い顔に、怯えを含ませて言った。
「お前……が、ヤるのか……!?」
ああ、そっちか。気づくの遅いなあ。
「だってさあ、グレッグ、男相手に勃たないだろ?」
ぐりぐりといじる手は休めないまま、言う。
「……そりゃ、そうだが……」
「なら、仕方ない、よね」
つぷ、っとグレッグの内側に指を挿れる。
「う……ッく」
こういうのって、気持ち悪いらしい。多分、グレッグもその気持ち悪さを味わってるのだろう、眉を寄せ、堪えているようだった。
せめて快感でそれを塗りつぶせればと、彼の中心を握り、その硬度を保てるように努める。
指一本しか入ってないというのに入り口どころか、中も狭い。
ボクのが挿れられるとは到底思えなかった。
潤滑剤がわりに唾液を、今度は直接窄まりに垂らす。
にちゅにちゅと、音を立てて、指がスムーズに動くようになってからもう一本、増やす。
二本の指で内側を撫で、どこかにあるだろう前立腺を探る。
「くァッ!」
「なるほど、ね」
探し当てた場所を何度も擦りながら、広げていく。
三本の指が問題なく出入りするまで解してから、ようやく指を引き抜いた。抜いた瞬間にグレッグの体が小さく震えるのを見て、ほくそ笑む。
まるで、ボクを求めてるみたいに見えて、嬉しかった。
「挿れる、よ」
もうパンパンに膨れ上がったボク自身を取り出し、入り口に宛がう。
グレッグの窄まりと、ボクのソレが擦れて湿った水音を立てる。
「あの、さぁ」
腰に力を入れて、ぐぐっと中へ押し込む。ほんの先端部分のみが、埋め込んだ状態で、ボクはグレッグに言った。
「実はボク、童貞なんだよね」
だからグレッグが初めての相手なんだ。
どうしても言っときたかったから口にしたら、グレッグが顔を引きつらせた。
「や、止めとけ、チャック……!!」
「もう、無理」
だって、どんな理由だろうと、初めてが好きな人ってのは幸せなことじゃない?
「アッ……ぐ、ああッ!」
指とは流石に大きさも違う。
呻き声を上げるグレッグを半ば無視しながら、ボクは中に押し入った。
「は……熱……」
ソレで味わうグレッグの中の熱さも、狭さも、指とは別格だ。
「気持ちい……ッ」
痛いほどだけど、ぎゅうって締め付けてくるのがたまらなく、心地いい。
繋がったところから溶けてしまいそうなくらいの熱を感じる。
グレッグが痛みに、不快感に顔を歪ませてるのが残念でならない。
萎えているグレッグの中心を、また刺激する。
「うあッ!?」
同時に、ボクのをグレッグの後孔でもって扱く。
さきほど解した名残の唾液と、ボクの先走りとが中で動きやすくさせている。
「ふぅ……ッ、ああ……イイよ、グレッグ」
「……ンぐッ……」
甘さの欠片もない声しか聞こえない。
それでも、ボクの中心がグレッグの中に入ってる事実は、疑いようが無い。
……受け入れて、くれたんだ。
それがグレッグにとって恋でも愛でもないものだとしても。
ボクが、キミを好きだと思った気持ちを、受け入れてくれてる。
動きがどんどん早まる。
そろそろ終わりが近い。
「好き、だ、キミが」
聞こえてるのか聞こえてないのか、判然としないけれど、口は勝手にグレッグに向かって囁いた。
好きなヒトが居る。今、目の前で、ボクを受け入れてくれた彼が。
失いたくない。
お互いの下半身からぐちゃぐちゃと淫猥な水音がしている。
「い、あッ!」
ボクのソレが前立腺を掠めたようで、悲鳴に似た、でも確かな喘ぎ声が耳に響く。
彼の中心も、先走りを飛ばし、限界まで張り詰めている。
想像するよりもずっと、淫らに喘ぐ姿に、もう押さえがきかない。
ぎりぎりまで抜いて、それから一気に根元まで差し込んだ。
荒い息を吐き、意識が真っ白になっていく中で、グレッグの体の温かさだけが残る。
解った、ようやく解ったよ。キミにどうしても言いたかった言葉が。
赤い血。
暗い闇。
濁った、虚ろな瞳。
ボクとして、キミに言わなければならない言葉は。
「死なせは、しないから」
失くしてなるものか。
ボクの自身が膨れ上がり、グレッグの中で欲を撒き散らした。
「…………!」
無言でその濁流に耐えるグレッグ。
全部を吐き出した後、硬さを失ったソレを引き抜くと中からごぼり、と出したモノが押し流されてくる。
どろりと流れ出る白濁を掬い上げて、グレッグのモノに絡めて擦り上げれば、程なく、グレッグも精を吐き出した。
この為に拓き踏み込みし路をやり直してみました。
あまり意味がなかったです(そりゃそうだ)
・チャックにどうしても言わせたかったセリフ2つを言わせて満足です
・グレッグさんたらツンデレー。むしろデレツン?
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