さながら事故のようだったとはいえ、想いを告げて、まがりなりにも同じ気持ちだと言ったのだからその責任は男らしくとってもらおうじゃないか。
その身体で。
長い一日が終わろうとしている。
長かった。本当に長かった。
あの告白も十分精神的に疲れるものがあったが、そのあとにもっと疲れる破目になるとは。
人の告白をばっさり切り捨ててくれた上にディーンとひたすら、始終くっついているものだから思わず襲い掛かりそうになった。必死の思いで抑えはしたものの、その分、気力もそうだが、体力も消耗してしまった。
何事もないというならこのまま倒れて爆睡してしまいたいぐらいに疲れているはずだ。
なのに、その疲れを補って余りあるほどのエネルギーが体中に満ち溢れている。
これを吐き出し、満たすまでは何があっても眠るものか。
いいや眠れやしない。
「というわけだから勿論、付き合ってくれるよね?グレッグ」
「何が『というわけ』なんだか知らんが……」
「『付き合う』って言って、頷いたのはそっちだよ?
返事をしたんだから義務も責任も果たさなきゃ」
一度、ボクを振り返ったと思ったらまたふいっと焚き火に視線を戻した。
ぱちりと爆ぜる火花と、赤々と燃える炎。
わずかに覗く顔の肌色が光か、熱さのせいか、赤く染まって見えた。
「……ちょっと待て」
「今更逃げようっての?」
何があっても逃す気なんかさらさらない。
たとえこうして会話を交わす間近に皆の眠るテントがあろうとも。
いっそここで押し倒してやろうか、なんて考えていたら、さっきとちっとも代わり映えのしない、動揺すらみせない後姿のままで、グレッグは言った。
「いきなり出て行くわけにもいかんだろう」
そう言って、グレッグは男用のテントに向かう。テントの中に肩から上だけを入れた状態で二言、三言交わしているようだが、その会話の内容は声の小ささもあって、よく聞こえない。
話が着いたらしく、そう時間も経たないうちにテントを離れて、ボクのほうへ歩いて来た。
焚き火の上に土をかぶせて火を消す。
今日は幸いにして晴れていて、月明かりで十分に足元が見える。
「じゃ、行こう。グレッグ」
途中で逃げ出さないよう、しっかりとその手を掴み強引に手を引いて歩きだした。
テントからそれなりに離れ、岩の陰に隠れてしまう場所を見つけてそこでようやく引いていた手を離す。グレッグは、逃げない。
ボクは黙ってとん、とグレッグの左肩を軽く押した。
力に逆らわず、彼は大きな岩に背を預ける。
近づいて、頭一つ分高いグレッグの顔を見上げるけれど、陰になっているせいで顔が良く見えない。
それが少し残念だと思う。
「ボクが言った言葉の意味、じっくり教えてあげるよ」
両手を頬に当てて、こちらへと引きよせれば唇が自然に合わさる。
ただ合わせるだけじゃ物足りなくて、薄く開いた唇の隙間から舌を差し込んだ。グレッグの唇をゆっくりとなぞりながら口腔内へ入れ、その奥にある彼の舌と、ほんの少し触れ合った途端。
すごい勢いで引っぺがされた。
元々の筋力に差が有るのと、ボクが夢中になりすぎていたせいで、肩を押された拍子に……尻餅をついてしまった。
さぞかし間抜けな格好に見えるんだろうなと他人事のように思いながら状況を分析する。
…………つまり。単純に言ってしまえば拒まれたってことか?
立ち上がらず、ボクは座ったままでグレッグを見上げる。
一瞬視線が合うが、すぐに下を向いて逸らされた。
「い……ッ、いきなりするヤツがあるかッ!
こういうのは最初から────────」
「最初から、なに?」
状況に対する理解が、遅まきながら追いついた。
ゆっくりと立ち、それから近づいて行く。
「ボクは言ったよ?最初から。好きだって」
「違う、そういう意味じゃ」
「そういう意味だったよ。
好きだってことも、付き合ってってことも。
好きなんだよ。ずうっと独り占めしたいくらいに。
ボクの物にしたくてたまらないんだ」
もう一度、岩まで追い詰める。
今度は払いのける隙すら与えないように腕を押さえて、身体を密着させる。
「もう何度もグレッグのこと頭で犯したよ。
可愛い声で鳴く姿を想像してさあ、ずーっとずーっと汚してた。
気持ち悪いって思うなら、間違っても頷いたりしなきゃ良かったんだよ」
軽く啄ばむような口付けを落とす。
ぴくりと震える姿が嗜虐心を煽って、どうしようもないほど背筋がぞくぞくさせた。
「男に犯されるのなんか、嫌だろ?」
わざと言葉でいたぶってみせる。
こんなこと訊いて、嫌だって言われたところで止める気なんかさらさらなかった。
「…………嫌だ」
そうだろうね、と言う代わりに唇を再度重ね合わせる。
素早く舌を差し入れて、グレッグの舌を探し出してそれに絡める。くちゅ、と音を立てることが目的みたいに舌を動かし続け、次いで、ひざでグレッグの中心を、ぐっ、と押した。
逃げようとする腰を追って身体全体を前に進める。
グレッグの後ろは岩だ。もう逃げようがない。
次の段階に進むためにも、と塞いでいた口を離す。つう、と粘性の液がわずかの間だけボクらをつないで、それから、途切れた。
少し離れた距離から彼を見る。
頬は赤いが、息はそれほど上がってない。
腰が砕けるほどでもなかったし、期待したほど効果がなかったみたいだ。敵は手強い。
などと考えながら、彼の表情を眺めていてふと気づく。グレッグが何事か言っていることに。
ほとんど音としても聞こえないほどで、かろうじて口の動きが言葉を表していることぐらいしか分からない。
「……なに。何て言ったんだい」
拘束する腕は緩めないまま、問い掛ける。
グレッグは、赤い顔のままおそらく、同じセリフを口にした。
「…………逆じゃ、ダメなのか」
「は……?」
「だから……ヤるんだったら、俺が上じゃだめなのかと言っているんだ」
言われて、考えるまでもなく、言葉が先に出てた。
「何で?
ボクは、グレッグに突っ込みたいんだけど」
「突っ…………!
下品すぎるだろ、お前……」
「抱かれたいんじゃないんだよ。抱きたいんだ。
男だからね」
「俺だって男だぜ?何も好き好んで男なんざ相手にしなくてもお前なら、選び放題だろうに」
「好き好んで選んだのが、グレッグなんだ。それは諦めてよ」
言い負かされるつもりなんか無いが、上手い駆け引きすら出来なくてただ本音を返すしかなかった。
なのに、グレッグは言葉に詰まったように押し黙り、突然糸の切れた人形のように力なく崩れた。支えきれなくはないが、なんとなく、流れのまかせてみる。
これでボクがグレッグを見下ろす形になった。
崩れおちたまま、俯いていて表情が全く分からない。
「……グレッグ?」
「男に犯されるのはごめんだ」
そんなに何度も繰り返されると傷つくなあ、と帽子の下に隠れた表情を覗こうと思っていたとき、チリチリと金具の擦れあう音が聞こえた。
まるでジッパーを下ろす音によく似た……ってよくよく見るとグレッグが自分の上着ののジッパーを下ろして、る?
薄暗いとはいえ、これだけ近ければ服と皮膚の違いくらい分かる。
でも、一体なんの、為に?
「……だが……そこまで言うなら」
女の子みたいに柔らかそうでは全然ないけれど、ボクの目線を釘付けにするそれが、徐々に露になっていく。
ごくり、と喉が鳴る。
「…………好きにしろ」
あれ?あれあれ?
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