2 据え膳
「す、好きにしろって」
「だから、お前の好きにしたらいいだろ」
「なんか勘違いしてない!?
今から夜通しゲームとかそういう意味で誘ったわけじゃないからね!?」
「この状況とあの会話でそんな素っ頓狂な間違いが出来るのはお前くらいだ」
何気に貶されていませんか?
いやいやそれより……これって。
ふらふらと、熱に浮かされるように手が動く。
表情を隠してばっかりいる邪魔な帽子を頭の上から落とすと、ぴくっと身体が少しだけ反応を返した。どこか頼りなげな、感じ。
単なるボクの主観だろうか。
帽子で隠されてた頭のてっぺんが見える。まじまじと見下ろしていると、つむじを見つけた。珍しい、と思う。
だってこんな風に見ること自体初めてだから。必然的に、グレッグのつむじなんか、見る機会なんて、ない。
いつだって見上げてばっかだし。
今更ながらに、ドキドキする。
これ以上のことさっきまではしてやろうと、意気揚々と考えていたのが嘘みたいに緊張して、変な汗が出てきた。
「……う……」
躊躇していると、グレッグが落ち着いた声音で呟いた。
「…………やはり、無理なんだろう。もうこれ以上は……」
「………………無理って、なんだよッ!」
聴いた途端、頭に血が上る。
思わず手をあごに掛けて上向かせて噛み付くように口付けた。
「んッ……!」
鼻から抜ける声をだしてグレッグが呻く。
ボクは構わず彼の口内を荒らしまわった。舌を吸ったり、上顎を舐めたりと散々やった挙句、ようやく解放してやる。
唾液が唇の端から零れて顎を伝っていく様がいやらしい。
「出来ない、なんて高を括ってた?」
零れ落ちる唾液を舐め取ってやりながら訊けば、グレッグは嫌がるように身を捩じらせながらも、答えを返す。
「お前が……したくない、んじゃないのか」
「バカなこといわないでくれないか。
無理やりでもしてやろうとか思ってたのに」
零れてた唾液を舐め取る動作のまま、顎を下って、喉の上に舌を這わす。
グレッグは、それに微かに仰け反るような反応をみせた。
自分から誘うふうを装って、油断させてから逃げようとしていたのなら、そんなこと、許しはしない。
左手でグレッグの腿に触れ、手のひら全体でズボンの上から撫でながら中心にたどり着く。ソコをぎゅうっと掴めば、耐え切れずに声が洩れ出た。
「……ッは」
「好きでもないヤツに弄くられて感じてるの?グレッグ」
耳朶を甘噛みしながら問う。
その途端、ボクの耳に押し殺したような吐息の代わりに、慌てたような声が聞こえた。
「好きでもないって……どういう意味だ」
「え?」
反論されるのは予め期待していた。そのために言ったようなものだし。ただ、『感じてない』とか、そんな感じのセリフを返されるのだろうとばかり思っていた。
グレッグが言った言葉は、予想の範囲外も範囲外。
あまりに突飛すぎて、愛撫する手さえ止まる。
「つまりお前の言ったことは全部嘘だった、のか」
「え、え?」
低くて落ち着きがあって、普段と変わらない声のようだったけど……なんだか不穏な空気が流れ出した。
「嘘って、ボク嘘なんか言ってないよ!?」
「だが今……」
「だってグレッグ、ボクのこと好きでもなんでもないんだろッ!?」
「…………そんなこと言った覚えはないが」
「言った覚えないって……だって、だって……」
落ち着け。落ち着いてよく考えろ。
人の告白をばっさり切り捨てた。(思い出したらなんだか涙がでてくるよ)
無理とか言われた。(不能扱い?それとも童貞だと思って嘗めてる?)
「……やっぱり、好きじゃないんじゃないかあ……」
涙声で訴えかけても、グレッグは視線を合わせようとすらしない。
顔も逸らしたままで見向きもしないけれど、ボクは構わず続けた。
「舌絡めようとしたら嫌がるし」
「告白したその日にそんなことしてくるとは思わんだろ、普通」
「……抱こうとすると反論するし」
「掘られるのが嫌なんだよ」
ボクも掘られるのはゴメンだ。
「…………告白だって、解ってるんだ」
「だから、最初から言ってるだろうが」
「『好きです付き合ってください』の答えは、『はい』でいいんだよね?」
今度は沈黙で返される。
「グレッグ、返事は?」
促してみても、彼は何も言わない。
逸らされたままの顔を無理矢理こっちに向けたい。実際、しようとしたら手でブロックされた。よほど顔を見られたくないらしい。
やっぱりランタン持ってくればよかったかも、と後悔が湧き出した。
ちょっと見えたグレッグの顔が、この暗がりでさえもはっきりとわかるほど赤かったから。
惜しいなあ。
「付き合ってるんだから、食べちゃってもいいんだよね」
「…………好きにしろと言ったはずだ」
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